やや小ぶりながら愛嬌のある小太りのラウンドケース。多面カッティングが施されたストレートシルエットのラグ。フランソワ・ボーゲル(François Borgel)社の防水ケースの中でも珍しいデザインを持つステンレススチールのケースを纏ったこちらのモバード。 ”SPORT”のペットネームが示すように、当時スポーツを中心とするアクティブな着用環境を想定したタフな一本と言えます。ちなみに裏蓋の刻印”C.S.(I)”は”Civil Service in India”を意味しており、「インド高等文官」と呼ばれる高級官僚が身に付けていた個体と思われます。当時英国領であったインド政府に支給された腕時計とあって、英国的なデザイン性が随所に見られる魅力的な逸品。 夜光塗料を配したアラビア全数字とペンシルハンド、そして点と線画織りなす幾何学模様が印象的な文字盤デザイン。アワーマーカーのエリアとそれ以外とに異なる表面処理を施し、光の差し込み加減で刻々と変化するツートーンダイヤルに仕上げたデザインは、典型的な英国式アール・デコウォッチ。文字盤外周部のミニッツレールをドットで表現している点は、他であまりみられないユニークな表情を生んでいます。 搭載するムーブメントは、モバードの腕時計用ムーブメントの中でも最も古い部類に入る、CAL.75を搭載。すべての受け石にゴールドシャトンを装備するハイエンドな仕様が特徴です。耐震装置インカブロックを備えており、ボーゲルケース特有の堅牢性と相まって使い勝手の良さが光ります。 着用するブラウンのレザーベルトは、米国ホーウィン社のクロムエクセル。その独特の無骨な質感がミリタリーテイストの文字盤との好相性を見せています。