〈ミドー〉の代名詞とも言えるベストセラーモデル「マルチフォート」。1934年にリリースされたマルチフォートは、防水性、耐震性、対磁性を備えたケースに、自動巻きムーブメントを搭載するものとしては世界初の腕時計でした。その革新性は同時に高いデザイン性を持ち、エルメスも自社ブランドのベルトを着けて販売していました。今で言うアップルウォッチのような存在だったのかもしれません。 こちらは自動巻きで知られるミドーの腕時計の中でも珍しい、手巻きムーブメントを搭載したモデルです。コンディションは極上。風防含めフルオリジナルで、ほとんど使用感のないミントコンディションを維持しています。手巻きムーブメント搭載ということで、一般的なバンパーオートモデルよりもやや薄いフォルム。ドレスウォッチを意識したレアモデル。 また何と言ってもこのモデルは防水ウォッチケース製造の大家〈フランソワ・ボーゲル〉製にして、数少ない33mmという比較的ラージサイズを採用するレアモデル。フランソワ・ボーゲルといえば、雲上ブランド〈パテック・フィリップ〉に数多くのウォッチケースを供給していたことで知られますが、この堅牢なスクリューバックケースの質実剛健な作りと美しいフォルムは、パテックのそれと遜色のない素晴らしい出来と言っても過言ではありません。またラージケースに対してベルトのラグ幅を16mmと細身に絞ることで、グラマラスで上品なシルエットを生んでいる点も見逃せません。 文字盤もパテック・フィリップの名機"ref.96"を彷彿とさせるバレット(砲弾)型のインデックスを採用し、上品さと個性、そして力強い存在感を兼ね備えた見事な仕上がり。バレットダイヤルは1930年代に生まれた文字盤デザインで、その後長きにわたって文字盤デザインの定番のひとつとして受け継がれたタイムレスな魅力を放ちます。ミニッツレールが文字盤の外周部ではなくアワーマーカーの内側に配置するスタイルで、セントラルセコンドハンドが短く内側に設定されているのもユニークな点です。 ムーブメントはフェルサのエボーシュをベースとするCAL.1200C。大ぶりなサイズはラージケースに合わせたもので、ミドーの妥協のない腕時計製造への意志が伺えます。コート・ド・ジュネーブ模様の施されたブリッジに加え、耐震装置インカブロック搭載、姿勢差調整も行われた質実剛健かつ美しい手巻きムーブメント。 ベルトは製造当時のMido純正のレザーベルトがそのまま残る形で入手しました。尾錠もSS製でこちらもオリジナルとなっています。