1940年代にアルピナが製造した角型の腕時計。ステンレススチール製の精悍なタンクスタイルにブラックシルバーギルトダイヤルというスタイリッシュな魅力あふれる一本。 一見するとシンプルなレクタンギュラーケースですが、随所にアルピナらしい手の込んだ個性的なディテールが見られます。肉厚なケースシェイプながら、ラグを薄く採ることでメリハリの効いたフォルムを実現しつつ、ラグ幅20mmと当時のこのサイズの角型時計としてはかなり幅広なベルトを想定しています。また、風防の外周部分を上から縁取るようにフレームが設置されている点も見逃せません。これは裏側からも同様に追加のフレームが設置されており、これによって角型風防の弱点である四隅の機密性の確保が図られています。同時にこのフレームは立体感あふれるシルエットを生み、一層力強い存在感を演出しています。ちなみにリューズトップに国際特許取得を意味する刻印が見られますが、それはこのケース構造を示していると思われます。 黒文字盤はミラー仕上げの美しい光沢感が魅力的ですが、この個体はロゴやアラビア数字、レイルウェイトラック等をすべてシルバーの下地出しで描き出している点で特にユニーク。時分針もそれに合わせてシルバーに輝き、しかも平坦ではなく立体的に手の込んだ流麗なシェイプをつけられている点も見事です。 搭載するCAL.490は、当時としても非常に珍しい自社製の角形ムーブメント。自社で角形ムーブメントを製造するマニュファクチュールは、オメガやロンジンといった名門のみに限られる数少ないジャンル。独特の美しい輪列構造とブリッジの側面まで磨き上げられた抜かりない手仕事が、往時のクラフツマンシップを偲ばせます。内部に軟鉄性のインナーケースを装備し、防塵性とともに耐磁性能を確保しています。