1930年代に製造された、ジャーマンウォッチブランド〈エクシータ〉のレクタンギュラーウォッチ。この俗に「タンク」と呼ばれるH型の力強いレクタングルシルエットは、第一次世界大戦で一世を風靡したタンク、つまり「戦車」を上から見た構図がデザインの源泉となっており、最初に使用したのが他でもないカルティエの「タンク」と言われています。 こちらはほぼ新品に近いコンディションを保った、ニューオールドストックの個体。ケースはフルSS製で、ドイツ語で"EDELSTAHL"の刻印がそれを示していますが、真鍮ベースにメッキ仕上げケースが多いジャーマンウォッチのジャンルにおいては稀です。そのクオリティもさることながら、"H"状のタンクシルエットを強調する意図から、ケースサイドに少しボリュームを持たせた上で、リューズが収まるスリットを設けたヒドゥンクラウンと呼ばれるスタイルがユニーク。また、エッジ部分にカッティングを配することで複数の面をケースサイドに設け、それぞれグリッター仕上げとヘアライン仕上げといった異なるテクスチャー処理を行なうという、非常に手の込んだディテールも見逃せません。 腕時計におけるアール・デコ全盛期に生まれた腕時計だけあって、ケースデザインだけでなく、文字盤もまた魅力的なアール・デコの幾何学的要素が満載されています。とりわけ文字盤外周から内側に向かって折り重なるように四角形のラインが描かれており、レイルウェイ・ミニッツトラックやスモールセコンドを巻き込んで、それら全てが相似形となる大胆なデザインも、リズミカルな凝縮感を演出するアール・デコならでは。 これらの線で隔てられた異なるエリアは、それぞれまた異なる光沢のテクスチャーに仕上げられており、見る角度によってトーンが刻々と変化しコントラストが切り替わるという凝ったデザインを採用しています。これらはジャーマンウォッチブランドが当時ほとんど採用することのなかったアール・デコをドイツ風にアレンジした、いわばジャーマン・デコと呼んでも過言ではないグッドデザインです。 搭載するムーブメントCAL.550は、ドイツのエボーシュメーカー〈デュローヴェ(DUROWE)〉社のキャリバー275をベースとした、エクシータ独自のナンバーが振られたCAL.315。デュローヴェは1920年代に、エクシータと同じくドイツのプフォルツハイムで創業した珍しいエボーシュ専業メーカーで、その名は”Deutsche Uhren Roh Werke(ドイツ時計エボーシュ)”を縮めたもの。エクシータは他にもドイツ・グラスヒュッテの"UROFA(Uhren-Rohwerke-Fabrik Glashütte AG)"などからムーブメントのベースを仕入れて自社で組み上げるエタブリスールとして、主にドイツ市場で多くの腕時計を展開しました。