1940年代にアルピナが手掛けたこちらの腕時計。やや大ぶりなラウンドケースとミラーフィニッシュのブラックダイヤル、そしてゴールドの砲弾型インデックスという上品さと力強さを兼ね備えた逸品です。 やや褪色した文字盤はランダムなマダラ模様を描き、経年による味わいを感じさせる見事な風合い。アール・デコ晩期の1930年代に生まれた砲弾型のインデックスは、当時生まれたパテック・フィリップのref.96、いわゆるカラトラバのアイコン的デザインとして知られますが、その後1960年代頃まで長きにわたって多くの腕時計に採用され続けた普遍的な魅力を感じさせます。12時のみアラビア数字となっている点は特にユニーク。アルピナのロゴや外周部のミニッツレールは下地出しであしらわれ、夜光塗料は5分毎にドットやキューブで配置するのに留め、上品なルックスを表現しています。 そして何と言ってもこちらは防水ウォッチケースの名家〈フランソワ・ボーゲル〉製にして、その34mmと大振りなラージケースを纏った極めて希少な一本。フランソワ・ボーゲルといえば、雲上ブランド〈パテック・フィリップ〉に数多くのウォッチケースを供給していたことで知られますが、この堅牢なスクリューバックケースの質実剛健な作りと美しいフォルムは、パテックのそれと全く同じ素晴らしい出来。 ボーゲルケースならではのインナーキャップを備えた二重蓋構造の防水ケースに搭載するムーブメントは、耐震装置インカブロックを備えたアルピナの自社ムーブ、CAL.592。これぞアルピナと言わんばかりの肉厚にして流麗なブリッジとパーツ類が質実剛健なムーブメントです。美しく面取りされたブリッジのサイドエッジにも職人気質な同社のクラフツマンシップが透けて見えます。