現在もその長い歴史を歩み続ける、知る人ぞ知る名門〈エベル〉。誰もが知るブランドではありませんが、過去多くの名品を残しており、そのひとつがこの1940年代初頭の英国陸軍に供給されたミリタリーウォッチ。ATP(Army Trade Pattern)と呼ばれるシリーズで、ケースバックにその刻印と共に政府官給品の証であるブロードアローが見られます。 ATPシリーズは、エベル以外にも数多くの時計メーカーが参画しており、基本的な共通スペック(白文字盤、スクリューバックケース、夜光ダイヤル等)を共有しつつ各社の個性がメーカーごとにみられる興味深いジャンルですが、このエベルのATPモデルは特に異彩を放っています。 ケースは当時最高品質のフルSS製。ATPシリーズの多くはメッキケースを採用する中、このチョイスはメーカー自身の技術力やクオリティに対する強い志向性を反映していると言えます。サイズはやや大振りでシリーズ中では最大級で、特に目を引くのがその足の長いラグ。 文字盤デザインは、その他のATPシリーズと同様のレイルウェイ×アラビア全数字インデックスに、夜光塗料を1時間毎のドットインデックスと時分針に盛ることで視認性を確保するスタイルを踏襲。しかしながら古典的なミリタリーモチーフのひとつ、コブラハンドを採用し、やや大振りなサイズ感も相まって特別な存在感を発する一本。全体的なシルエットやルックスは、ダイヤルカラーを除けば後に続くダーティーダース、とりわけロンジンのグリーンランダーを彷彿とさせます。 搭載するムーブメントはエボーシュメーカー〈オーロール・ヴィレ(Aurore Villeret)〉社のエボーシュをベースにオリジナルのブリッジレイアウトとチューニングを施したCAL.99。独特の流麗なラインを描くブリッジは美しく磨き上げられた見事な面取りがエッジ部分に見られます。