1920年代を頂点として隆盛した一大芸術ムーブメント、アール・デコ。腕時計の黎明期とも重なるその時代に生まれた腕時計は、従来の懐中時計とは異なりポケットからの出し入れという制約を受けないため、それまでの円形にとらわれない自由な発想によるデザインが生まれました。 特に直線と幾何学的な曲線が主体となるアール・デコ期に人気を博したのが、角形ケースの腕時計。直行する線を強調した幾何学的なフォルムと、それに伴うシンメトリックな文字盤デザインは独特の存在感を放ちます。〈ローマー〉が1930年台に製造したこちらの角形時計は、その直進性を強調する縦長で、かつカーブしたシルエットが非常にユニークな一本です。 ケース幅は20mmとメンズウォッチとしては細身なサイズにも関わらず、44mmの異様に縦に長いレクタングルケース。ラグと一体化した力強いサイドベゼルのストリームラインは緩やかなカーブを描き、いわゆるカーヴェックスのケースデザインが存在感を際立たせています。装飾を排し、ストイックなまでにシンプルに徹した質実剛健なデザインも魅力的ですが、何よりそのコンディションも抜群。ヘアライン仕上げと鏡面仕上げとを織り交ぜたケース表面の丁寧な仕上げは、その製造当時の職人による手仕事を今に伝えています。 文字盤デザインはアラビア全数字とレイルウェイインデックスを基調とした典型的なアール・デコスタイルを継承。それらはブラックギルトダイヤルと呼ばれる、金メッキされた下地となる地金にインデックスをマスキングすることで、ブラックダイヤルにくっきりと描かれる「下地出し」の技法が用いられています。何層もブラックの塗装を重ねて磨き上げられた深い光沢を放つ黒文字盤に、ゴールドのインデックスが印象的に輝く様は唯一無二。 また文字盤外周部のレイルウェイからスモールセコンドのレイルウェイに連なる、連続した相似形の長方形の線の配置、あるいは位置によってメリハリよくサイズを変えたアラビア数字インデックスなど、幾何学的意匠が視認性という実用的意匠を共有している点も、この時期の腕時計の最大の魅力のひとつでもあります。 搭載するムーブメントはフォンテンメロンのCAL.29をベースに、ブリッジに変更が加えられたローマー自社チューンのレクタンギュラーモデル。穴石にゴールドシャトンが追加され、ブリッジ表面はストライプ処理されたハイエンドな仕様が特徴です。 ベルトはadvintageオリジナルで、ラグ取付幅15mmに対してボディ部分は16mmに仕立てることで、15mmという狭いラグ幅でもベルトの存在感を保った新型モデルです。