ドイツ、ライプツィヒに存在した知られざるジュエラー〈ヘルマン・ホルマン〉。第二次世界大戦後の列強によるドイツ分割統治で旧ソ連領となったライプツィヒ。それゆえ戦後姿を消してしまうヘルマン・ホルマンの情報はほとんど残っていないものの、まれに市場に姿を現す腕時計のクオリティの高さは目を見張るものがある数少ないジャーマンウォッチブランドです。 こちらもその例に漏れず、大振りなサイズのフルSSレクタンギュラーケースにミリタリーデザインのブラックミラーダイヤルをセットした、力強く且つクールな一本。 文字盤はブランドロゴが配されないアノニマスダイヤルかと思いきや、よくよく見るとブラックダイヤルにおそらく透明のインクで"HERM. HORRMANN LEIPZIG"のロゴが12時位置下部に記載されているという、いわゆるゴーストレター(隠し文字)が記された変わり種。ミリタリーウォッチなどで視認性の妨げにならないよう余計な文字を隠し文字にする意匠はしばしば見られますが、そのミステリアスな存在感は唯一無二の魅力です。 そして力強いタンクシェイプの角型ケースは、風防のエッジ部分およびケース裏にそれぞれパッキンが仕込まれ、4点のビス留め箇所を持つ裏蓋で密閉し気密性を高められた、珍しい形式の防水構造を採用。いわゆる「シュミッツ式」のクラムシェルケースとは異なり、ケースの外側に張り出したビス留めスペースが設けられているのが特徴的。リューズもケースから伸びるダストプルーフパイプに密着して包み込む構造がとられており、角型時計にして非常に堅牢で実用的な仕上がりです。 ムーブメントは〈フィデス・ジュネーヴ〉という当時存在したスイスの時計メーカーがヘルマン・ホルマンの別注を受けて手掛けた角型の手巻きモデル。分厚く作り込まれ、かつエッジも丁寧に磨かれた高級感漂うハイクオリティな機械に加え、耐震装置インカブロックを備えた、当時としては稀有なスペックのレクタンギュラーモデル。