1920年代を頂点として隆盛した一大芸術ムーブメント、アール・デコ。腕時計の黎明期とも重なるその時代に生まれた腕時計は、従来の懐中時計とは異なりポケットからの出し入れという制約を受けないため、それまでの円形にとらわれない自由な発想によるデザインが生まれました。 特に直線と幾何学的な曲線が主体となるアール・デコ期に人気を博したのが、角形ケースの腕時計。直行する線を強調した幾何学的なフォルムと、それに伴うシンメトリックな文字盤デザインは独特の存在感を放ちます。今回入荷した1940年代の〈ランコ〉の角形時計は、その直進性を強調する縦長のシルエットが非常にユニークな一本です。 ケース幅は19mmとメンズウォッチとしては細身なサイズにも関わらず、42mmの異様に縦に長いレクタングルケース。ラグと一体化した力強いサイドベゼルのストリームラインは緩やかなカーブを描き、いわゆるカーヴェックスのケースデザインが存在感を際立たせています。装飾を排し、ストイックなまでにシンプルに徹した質実剛健なデザインも魅力的ですが、何よりそのコンディションも抜群。ヘアライン仕上げと鏡面仕上げとを織り交ぜたケース表面の丁寧な仕上げは、その製造当時の職人による手仕事を今に伝えています。 ベルトは〈ボンクリップ〉のステンレススチール製ブレスレットを採用。質感の調和もさることながら、直線が織りなすバンブーブレスレットとレクタングルケースとの連続性による一体感は見事の一言。 カッパーダイヤルに配されるミラーフィニッシュのアラビア全数字インデックスや共色の針類など、異なる質感による赤銅色の美しいグラデーションにも要注目。色合いの細部にまでこだわり抜かれた文字盤は、その渋い色味とともに上品な表情を見せています。
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