〈ルシーナ〉が手掛けた1940年代の腕時計。このブランドは現存する個体群から推察すると、ジュネーブを本拠地とし、英国市場を中心にドレス系の腕時計を製造していた時計メーカーで、主にムーブメントを仕入れ、時計を組み立てて販売するという典型的な「エタブリスール」と呼ばれるメーカーであったと思われます。 知られざるブランドではあるものの、この腕時計は当時大英帝国による植民地支配下のインド(1858年〜1947年)において「インド高等文官」と呼ばれる役人に支給されたオフィサーウォッチ。内蓋に見られる "C.S.(I)” という刻印は、その役職である ”Civil Service in India” の頭文字をとったもので、インドでの任務における高温多湿・塵埃の多いタフな着用環境が想定されています。 インナーキャップを伴ったこの堅牢なスクリューバックケースは、当時防水ケースメーカーの最高峰として知られたスイスの〈フランソワ・ボーゲル〉製。このメーカーのケースはパテック・フィリップをはじめとする名門にも供給されており、とくにこのベゼルからラグにかけてスムースに一体化した独特のスタイルは、パテック・フィリップが特に好んだデザインとして数多く例を同社の腕時計に見ることができます。 またこの腕時計のハイライトは、絶妙なエイジングを伴った文字盤です。ローマ数字に夜光が盛られた上品かつ力強いデザイン性もさることながら、マーブル状の褪色の粒が極端に細かく、まるで星雲のように一様に広がりを見せています。このような芸術的とも言える美しいエイジングは数少なく、唯一無二の魅力を生んでいます。 着用するベルトは天然のヌメ革を採用した当店オリジナル。しなやかでナチュラルなヌメ革の魅力を生かし、使い込むことで色合いを深めるエイジングが楽しめます。