〈ウォルサム〉と言えば米国最古の時計メーカーとして知られるアメリカンウォッチブランドの雄。しかしこちらは英国の銀製品に押されるホールマークを持つ英国製ケースを纏った、当時の英国市場向けの個体です。米国製のムーブメントを搭載しているため、その文字盤には誇らしげな"U.S.A."の文字が入っています。 実はこの銀無垢ケースは、ウォルサムの創業者の一人であるアーロン・ラフキン・デニソン が英国に渡り創業した〈デニソン ・ウォッチケースカンパニー〉製。経営者を同じくする米国のウォッチメーカーと英国のウォッチケースメーカー。この腕時計は、そのマリアージュを実現した一本と言えます。 その数奇な運命だけでなく、こちらのケースデザインはまさに唯一無二の魅力を放っています。分厚いフラットベゼルにシリンダースタイルの寸胴なケースシェイプ。ワイヤーラグという点を除いては、1920年代の腕時計デザインを見回してみても、なかなか見当たらないユニークなデザイン。 おそらく当時のフライトウォッチとして飛行家向けに作られたものと思われます。クラシカルな菊型のリューズですが、当時まだ馴染みのあった懐中時計のものとは明らかに違う平たいシェイプをしていますが、これも腕時計の着用環境で邪魔にならず、かつ操作のしやすさを意識したデザイン。 一方繊細で透明感のある乳白色のポーセリンダイヤルは、懐中時計以来の古典的な文字盤スタイルを踏襲。スモールセコンドの部分を一段掘り下げる、「シングルサンク」と呼ばれるデザインも同様です。5時位置にごく小さなヘアラインが見られますが、ほとんど目立ちません。レイルウェイ・インデックスをミニッツトラックとスモールセコンドに採用したアール・デコスタイル、ブルースチールのスペード針が美しく映えています。ちなみに12を赤で描くのは、通常リューズの位置に12時が来る懐中時計に慣れた人が間違えないように、という説が有力です。 搭載するムーブメントは米国製のCAL.365を搭載。当時15石のハイクオリティなムーブメントを腕時計サイズで作ることができるメーカーは限られていました。各穴石に備えられるビス止めのゴールドシャトンやブルースチール製のブレゲヒゲゼンマイ、さらにバイメタル切りテンプといった高級技術に加え、硬いニッケル製ブリッジの全面に配されたダマスク文様と呼ばれる優雅なエングレーヴィングなど、当時の米国製ムーブメントの特徴が前面に出た一機です。 着用するベルトは、自然な細かいシボが印象的なイタリアンシュリンクレザーを採用したadvintageオリジナル。オイルをたっぷりと含んでおり、しなやかでしっとりとした質感があります。使い込むうちに光沢が増し、味わいのある風合いとなります。 〈商談中〉