〈モバード〉が展開していた自社の姉妹ブランド、〈ラルコ〉。モバード創業者のディティシャイム一族の第二世代、ロジャー(Roger)、アルマン(Armand)そしてルシアン(Lucien)の会社(Co)という由来から頭文字を取り、RALCOと名付けられています。主に宝飾品店向けに展開していたほか、クロノグラフの製造で特に優れた功績を残しており、1920年代には他に先駆けて、腕に装着するスプリットセコンド機能を搭載したクロノグラフを製造していました。 シックなブラックダイヤルにローマンインデックスを放射状に配し、セクターデザインを交えてリズミカルにデザインしたミニッツインデックスの凝縮感を加えるといった、アール・デコ期の幾何学デザインがふんだんに用いられた文字盤デザインが秀逸な、こちらの一本。力強い防水ケースを用いたモバードの力強いシルエットとは異なり、上品さを重視したジュエラーズウォッチのデザイン性が前面に出ています。 ギルトダイヤル、もしくはブラックミラーダイヤルと呼ばれる光沢のある黒文字盤は、「下地出し」の技法が用いられています。まず下地となるゴールド等の文字盤に特殊なコーティングインクでインデックスを描き、その上にブラックの塗装を施した後、最後にコーティングだけを専用の溶剤で落とすと下地のゴールドがインデックスとして描き出されるという、非常に手の込んだ製法です。 単なるプリントの場合、摩擦や経年劣化などによってインデックスが薄くなったり消えたりすることがありますが、下地出しの場合その心配はなく、漆黒の文字盤にインデックスがくっきりと光を受けて浮かび上がる独特の美しい文字盤を永く保つことができます。多少暗かろうと視認性を損なわない利便性に加え、高級感を兼ね備えた人気の高いディテールのひとつ。 円筒をスライスしたような、極端なシリンダーケースもこの腕時計の大きな特徴。ラウンドベゼルはフラットに仕上げられ、直線的にカッティングされたラグデザインとも相まって、直線と曲線の折り重なるアール・デコの様式美をここにも見ることができます。