おそらく英国の宝石商がショップウォッチとして販売していたと思われるこちらの腕時計。9Kの金無垢ケースでありながら、極めて手の込んだ防水構造が見られる、1940年代の金無垢時計には非常に珍しい一本です。 特に注目に値するのはロレックスの初期のオイスターケースと同じ防水構造が採用されている点。コインエッジがあしらわれたベゼルと裏蓋はそれぞれねじ込み式となっており、ムーブメントに取付けられたネジ山が刻まれた中胴を、ミドルケース内部でベゼルと裏蓋によって締め込むという特殊な構造で、これはドーバー海峡を泳いで渡るという伝説的なパフォーマンスで名を馳せた当時のロレックスのオイスターケースと同様の内部構造です。 赤銅色のカッパーカラーに色付けられた文字盤のエレガントな表情と、古典的なブルースチールのロザンジュ(菱形)針。連続するサークルラインと細身のアラビア数字など、幾何学的な要素が重層的に織り込まれた文字盤デザインもまた秀逸です。 ドレスウォッチならではのエレガントなデザイン性を持ちながら、堅牢な防水性を確保した稀有な逸品。裏蓋に “REMOVE MOVEMENT FROM FRONT AND UNSCREW BEZEL” と、特殊な構造ゆえの注意書きがあるのも面白い点です。カッパーカラーのリーフ針と共色で仕上げられたアラビア全数字インデックスに加え、外周を飾るドットインデックスが極めてユニークな文字盤デザインもまた、アール・デコの影響を色濃く残す見事な仕上がり。 ストライプフィニッシュが施された手巻きムーブメントは、受石にゴールドシャトンを装備したハイエンドで質実剛健な作りとともに、英国王室御用達の宝石商の名に恥じない美しさ。耐震装置インカブロックも備え、実用性にも優れた機械です。