〈ミドー〉の代名詞とも言えるベストセラーモデル「マルチフォート」。1934年にリリースされたこのモデルは、防水性、耐震性、対磁性を備えたケースに、自動巻きムーブメントを搭載するものとしては世界初の腕時計でした。その革新性は同時に高いデザイン性を持ち、エルメスも自社ブランドのベルトを着けて販売していました。今で言うアップルウォッチのような存在だったのかもしれません。 小振りなケースが特徴のミドーの腕時計ですが、こちらは32mm超のラージサイズ。数あるミドーの中でもこうしたラージケースを採用したモデルは、特に1940年代以前は極めて希少。クラシカルなショートラグスタイルで、ボリューム感のあるラウンドケースが効果的に強調されています。当時の時計としてもやや大振りなサイズ感ながら、ベルトのラグ幅を16mmと細身に絞ることで、グラマラスで上品なシルエットに仕上がっている点もポイント。 チョコレートブラウンの文字盤は、外周部のレイルウェイ・ミニッツトラックにオレンジの配色を持つツートーンダイヤル。特に5分刻みで入る太いラインは、セクターダイヤルを思わせる力強さとリズミカルなデザイン性が魅力です。アラビア全数字インデックスおよびペンシルハンドは夜光塗料を伴い、その大振りなケースサイズとも相まって、同時代のミリタリーウォッチを彷彿とさせる無骨なルックスもまた新鮮。 搭載するムーブメントは、ミドーが当時先駆的に開発したバンパー式自動巻きモデル。オレンジでロゴやスペック表記が刻印されているのが特徴で、通常モデルと異なる設計に加えサイズアップして作られたラージケース用の特別機。全回転式以前のクラシックな自動巻き機構として知らるバンパー式は、ローターが前後に反発して回転効率を上げるためのスプリングが備えられており、バンパーが弾む独特の音や感触が楽しめる味わい深さも魅力のひとつ。