アプライド仕上げにゴールドペイントのブレゲ数字インデックス、繊細且つ大胆にシェイプされたブルースチールのブレゲ針、ツートーンダイヤルと高品質な〈デニソン〉社の9金無垢クッションケース。外見だけなら当時のオメガやロンジンといった高級メゾンの腕時計と言われてもおかしくない、極めて高いクオリティとデザインセンスを感じさせるこちらの一本。 この腕時計を手掛けたのは、イギリスの片田舎、トーントン(TAUNTON)に当時あった宝飾品店〈R.L.コーゼンズ〉。はっきり言って無名のジュエリーショップの腕時計でありながら、もはやブランドの存在意義を忘れさせる高い完成度。 1930年代に作られた個体で、ケースと裏蓋がヒンジで連結される古い=手の込んだケースデザインであることも含め、非常に強い特別感があります。それと同時に、トーントンの無名ジュエラーが当時この腕時計を企画するにあたって込めた、大変な熱量を感じます。フォンテンメロンのエボーシュを用いたムーブメントも、丁寧な面取りとストライプフィニッシュを施し、機械的なクオリティも抜かり無し。 イギリスの小さな町の小さな宝石商が精一杯の背伸びをして作った腕時計は、名だたる名門に引けを取らない美しさと気品を放っていました。