純英国製の腕時計メーカーとして知られる〈スミス〉。その最晩年にリリースされたモデル「インペリアル」が入荷しています。 このモデルが最初に発表されたのは1958年。スミス伝統のキャリバー1215に大幅な改良を加え、19個の受け石を備えた新型ムーブメント、キャリバー0104を搭載したニューモデルとしてスミス・ファミリーに加わりました。 今回ご紹介する商品は、販売した英国の老舗ジュエラー〈ジェームズ・ウォーカー〉が発行した保証書とともに純正ボックスに保管され、しかも保証書には1968年11月20日の購入日が記載された非常に貴重な一式。ちなみにホールマークから読み取れる製造日は1963年なので、数年はお店の在庫として店頭に並んでいたことが想像できます。小キズは見られるものの、コンディションは良好。当時のオーナーの思い入れが伝わってきます。 インペリアルも、デラックスに負けず劣らず様々なデザインを持つスミスの主力機でしたが、その時代性から比較的モダンな文字盤デザインのものが多く見られます。しかしこちらはその中でも珍しい、クラシカルなデザイン性を持った個体。金無垢のケースは少し大振りながら、やや細身にシェイプされたアラビア全数字インデックスは、1930〜40年代にしばしば見られるアール・デコの影響を受けた腕時計が持つ特徴のひとつ。細身のドーフィヌ針は落ち着いたダークネイビーで、赤く彩られた菱形のモチーフを持ったセンター秒針は、この時代のスミスの腕時計に見られるアイコン的デザインです。 この腕時計が作られた当時、すでにスミスは陰りを見せる時代。むしろその初期を彷彿とさせる、上品かつ控えめなデザインへの回帰を図ったかのような腕時計。美しいシリンダースタイルの金無垢ケースは、スミスがその黎明期から長年採用し続けた〈デニソン〉社製。最高の組み合わせです。スミス最晩年の力強い輝きとともに、消え行く憂いを内包した、そんな一本。