1940年代にドイツの時計ブランド〈マルス〉が製造した、ドイツ製の腕時計。 マルスは、ドイツの時計製造の中心地プフォルツハイムで1928年にアドルフ・ゲンゲンバッハが創業した時計メーカー。その素性は明らかではないものの、1930年代〜60年代にかけてドレッシーな腕時計を中心にバリエーションが見られる、典型的なエタブリスールです。ムーブメントは必ずと言っていいほどドイツ製にこだわっており、デザイン性にもそれが表れています。 こちらはやや小振りのレクタングルモデルで、当時のボーイズサイズという位置付けの腕時計。小振りとは言え、直線で構成されるタンクスタイルの力強いケースデザインと、角型モデルには珍しいステンレススチールケースの硬質感、さらにミリタリーテイストとアール・デコの幾何学性が混交した凝縮感のある文字盤により、ある種独特の存在感を漂わせています。とりわけ文字盤のレイルウェイ・インデックスをはじめとする直線の活用、内と外を隔てる繊細なツートーン仕上げのラインなど、細部まで行き届いた精緻な装飾は圧巻。 搭載するムーブメントCAL.275は、ドイツのエボーシュメーカー〈デュローヴェ(DUROWE)〉社製。腐食を防ぐために懐中時計の時代から行われてきた古来の技法、粒金仕上げが美しいムーブメントです。その独特のブリッジデザインやエッジの丁寧な面取りも大変見事。このデュローヴェ社は、1920年代にドイツのプフォルツハイムで創業した、ドイツでも珍しいエボーシュ専業メーカー。その名は”Deutsche Uhren Roh Werke(ドイツ時計エボーシュ)”を縮めて名付けられています。