漆黒の黒文字盤、エッジの切り立ったソリッドなホーンラグ。シンプリシティの中に息づくオリジナリティ。「ムーブメントのデパート」の異名を持つ《モバード》の腕時計ですが、むしろそのデザイン性の高さに惚れる一本がこちら。 特に印象的なのが、ブラックミラーダイヤルの底光りする艶やかな深い黒。表面を光沢に仕上げることで、夜光インデックスや針がまるで暗い湖面に浮かび上がるかのように映えます。主に視認性を高めるために軍用時計に見られる意匠ですが、同時にその美しさが際立つ用の美を体現しています。 独特の硬質感が味わい深いステンレススチールケースは、フランソワ・ボーゲル(François Borgel)が手がけた「ボーゲルケース」と呼ばれる防水ケース。ねじ込み式の裏蓋を外すと、"FB"のイニシャルと鍵のロゴマーク、スイスの特許番号の刻印が蓋の内側に見られます。内部は防塵製、耐磁性を高める軟鉄のインナーキャップが備えられ、ハードな使用環境が想定された質実剛健な作りも魅力。ラグ・ケースともにノンポリッシュで、特に手の込んだ多面カッティングデザインのラグは圧巻。光と影のパターンが角度によって様々な表情を使い分け、特別な存在感を醸し出しています。 搭載するCAL.260は、マニュファクチュールの名門らしさの光る自社製ムーブ。インダイレクト式(出車式)センターセコンドながら、出車と中央の2番車がともにブリッジの下に配置された、非常に難しい輪列構造を見事に実現しています。受け石にゴールドシャトンを備えている点も見逃せません。